経営者の輪Vol.392 株式会社ONE ABILITY・代表取締役 中嶋創史さん
経営者の輪Vol.392 株式会社ONE ABILITY・代表取締役 中嶋創史さん
今回、お話を伺うのは、株式会社ONE ABILITY・代表取締役 中嶋創史さん。2017年に続き2回目のご登場です。当時は経営コンサルタント、現在は新たな事業に携わられています。「趣味のひとつ」という軽い気持ちから始め、のめりこんでいったお仕事について、そこから見えてきた現状や将来についてお聞きしました。
できるかな?【人生を変えた一粒のトマト】
経営コンサルタントとしてさまざまな業種の相談に乗っていた中嶋さん。お客さまであるトマト農家を訪ね作業のお手伝いをしたとき、口にした一粒のトマトが中嶋さんの人生を変えました。
フルーティーな味わいに感激。自分でも作ってみたい、という思いが家庭菜園を始めるきっかけとなりました。しかしながら、やはり家庭菜園では同じミニトマトは作れないと、何度も失敗の繰り返しを続けていたところ、親戚が農業を辞めることになったというお話が舞い込んできました。運命を思わせる絶妙なタイミング。早速、約300坪のビニールハウスをお借りして、いきなり農家のような大規模な家庭菜園が始まりました。300坪とは、家族で携わるのに適した面積。この面積であれば、通常、植える苗は2,000本程度ですが、そのあたりもわからなかった中嶋さんは「植えるだけ植えてみよう」と、通常の3倍にあたる6,000本を一気に植えてしまったのです。
自然はビギナーに容赦ありませんでした。ジャングルの様に密植しすぎて日が当たらない、葉が重なり合って病気が蔓延するなどの悪条件が重なり、初年度の収穫量は想像をはるかに下回るものだったそう。
それでも収穫できたトマトの味は確かなものでした。甘くてジューシー、皮が薄くて舌ざわりも抜群。自分でも納得できる味わいだったのです。直売を始めると「おいしい」と評判になり、首都圏のスーパーへの出荷も始まりました。
しかし、そのときはまだコンサルタントのお仕事も忙しく、トマト栽培と販売は「片手間」の範疇を超えるものではありませんでした。
なるほどね!【トマト栽培を通じて見えてきた課題】
難しいと感じていたトマト栽培ですが、今は「案外そう難しいものではない」と言います。その理由を「トマトは生き物だから」。環境さえ整えば、トマト自ら花を咲かせ、実をつけます。つまり、中嶋さんのお仕事は「トマトを育てる」のではなく「トマトが育っておいしい実をつける環境を整備すること」というわけです。
トマトの将来性と面白さを感じるようになっていた中嶋さんは、伊勢崎市内のビニールハウス約700坪を借用し、また前橋市に新たにビニールハウス約500坪を購入。面積を1500坪と一気に増やしました。昨年には、桐生市に500坪のビニールハウスを借用し生産を開始したそうです。
どうする日本!?【農業と食料の未来】
農業に携わる比率が高くなるにつれ、中嶋さんの考えや意識の向く先は少しずつ変わっていきました。日本の人口のこと、生産者のこと、世界の人口のこと、食料のこと、その食べ物に向ける心のこと。そして、見えてきたのは日本社会が抱える複合的な課題でした。
「今の日本の農業生産システムでは、将来にわたって食料確保が持続できない。そもそもシステムと呼べるものではない。表向きはデジタル化され始めてはいるが、実態はアナログだらけの産業である。真剣に考えなければ、危機的な食糧不足の状況に陥り、日本で食べ物に困窮する日が近い将来にきてしまう」中嶋さんは警鐘を鳴らします。
数字は冷酷です。農業従事者の平均年齢はおよそ70歳。日本の人口は現在約1億2000万人です。ある統計では2050年には1億人を切ると予測されています。70歳の農家さんが、25年後も今と同じように、あるいは今以上の量の農産物を生産し続けるのは、今のままではかなり難しいものがあります。
食料自給率はカロリーベースで約38%と主要先進国の中でも最低水準。これは単なる経済問題ではありません。国の安全保障に直結する問題であり、私たちにとって「食べられなくなるかもしれない」深刻な話なのです。「もし世界で食料危機が起きたら、日本は自分たちで食べ物を確保できるのか。輸入に頼り切った今の状況は、本当に危うい」と真剣なまなざしで現状を語ります。
危機感は、さらに環境問題にも及びました。トマト栽培を通じて、気候変動の影響を肌で感じるようになったのです。異常気象による温度変化、予測できない豪雨。自然のリズムが狂い、異常が異常でなくなりつつあることも、トマトに関わったからこそリアルに感じるようになりました。
「農業と環境はつながっています。でも同時に、農業のあり方が環境にも影響を与えます。化学肥料や農薬の使い方一つとっても、土壌や水質に影響する。持続可能な農業を考えなければ我々人類の未来はありません。また、食べ物を無駄にするようなことを続けると、いつかしっぺ返しが来る」と深刻な現状について想いを語ります。
この手があったか!【捨てる神あれば拾う神あり!】
前述ようなことから、中嶋さんの農園では、廃棄するトマトがなくなる取り組みを進めています。皮が薄い同社のミニトマトは、熟し過ぎると皮が割れてしまいます。糖度も強いためか、割れた個所からカビが生えやすくなります。生産当初は、割れたトマトは売り物にならず、周りの生産者にも相談したようですが、明確な答えも出せず廃棄へ。いろいろと考えた末にたどり着いたのは、自動販売機で売っていたトマトジュースだったそうです。
『何とかジュースにできないか?』と思いトマトジュースを作っている大手メーカーから、地方のジュース加工場を含め飛び回った結果、トマトジュースを製造する道を探し当てました。群馬県内北部ではリンゴの生産が盛んで、リンゴの山地にはジュース加工場があると聞きつけ群馬県川場村まで。そこでリンゴのシーズン以外で、トマトジュースの加工を請け負ってもらえる業者さんと契約まで結びつけました。現在では、中嶋さん以外の伊勢崎市内のトマト生産者の方も、トマトジュース販売を始めているそうです。まさにパイオニア的な存在となっているようです。
やってみるか?【どこがスマートな農業?】
最新技術も導入。スマート農法により、ビニールハウスの窓の開閉や水やりを自動化。資源を無駄にせず、環境負荷を抑えながら、しかも日中付きっきりでなくても管理できるという効率的な栽培が実現しました。
さらに「観察すること」の大切さにも気づきました。トマトの顔色を見て健康状況を判断したり、物事を違った方向から見つめ、考えたり。それは、新たな何かを生み出す視点になるはずです。
他社のコンサルタントをすることはなく、自社のコンサルトとトマトの栽培・販売に完全にシフトした中嶋さん。まさにセルフコンサルティング。変わったのは「心身のゆとりと時間の使い方」と言います。今は、他人のためではなく自分の目的、目標のために使う時間が圧倒的に増え「やりたいことができている」と感じているそう。トマトハウスの中から日の出を見て、その美しさに感動したり、ハウス内の昼夜の温度の違いを環境測定システムで毎日確かめたり。ひとつひとつの満足が、日々の大きな達成感、充実感につながります。
やってみよう!【仲間づくり、そして新たな挑戦】
中嶋さんが危惧しているのは、農業の担い手がいなくなること。
「日本では、農業は儲からない、きつい、という印象が強い。若い人が農業を選ばない理由がよく分かります。でも、それは社会全体の問題」と話します。そして「作る人の価値が正当に評価されない社会は、どこかおかしい。食べ物は命の源です。それを作る人たちが報われない仕組みは、持続しません」と。
しかし、個人の努力だけでは限界があります。「農業を社会全体で支える仕組みが必要」と訴えます。そこで中嶋さんは後継者育成にも率先して力を入れています。技術を教えるだけでなく、農業の意義、社会的な役割、そして経営の視点まで。価値観を同じくする仲間が増えていけば、少しずつ状況が変わっていくと考えています。
そんな中嶋さんの望みは、自分の会社で育った人たちが独り立ちすること。のれん分けでもなく、フランチャイズでもない。「農業に情熱と喜びを持つ人が独立し、同じ目線で語り合える仲間になる。そんな関係を築いていければ」と話します。
そして今、うれしい変化が起きています。2年前、一人の仲間がトマト農家として独立。来年には、2人目の独立が決まっているそうです。このようなスピードで人が育っていく法人は稀有な存在です。
やればできる!【好きこそものの上手なれ】
「おいしいと言ってくれる人の顔を見ると、作る意義を実感できます。自分が作ったものが、誰かの喜びになる。ミッションというか使命感に似た思いがあります」と目を輝かせます。
困難なときでも「やめたい」と思ったことがないという中嶋さん。その理由を尋ねると「スタートが『趣味』だったからかも、、」と、はにかんだ笑顔を見せます
現在、他団体との取り組みで、熱帯果樹の実験栽培に2年前から挑戦中。きっかけは、スーパーで買ってきたアボカドの廃棄になった種だとか。数個では満足せず、市内飲食店を回って、捨てられるはずのアボカドの種をかき集めたそうです。今後は、様々な作物へも挑戦するとのこと。
「伊勢崎での農と食の可能性を広げていきたい」と最後まで情熱的に語ってくださいました。
企業情報
今こそフロンティアスピリッツを発揮せよ!
あのお店・会社のあの人を連載で御紹介します。
アイマップでは連載企画として、「応援します商売人!今こそフロンティアスピリッツを発揮せよ」と称し地域の企業人・オーナーさん達をご紹介していきます。 また次の方は、ご紹介を頂くという経営者の輪方式をとらせて頂きます(笑) この企画を通じて、少しでも地域の皆さんに地元のお店や企業、そしてそこで働く人達を知って頂ければ と思っています。またそれが僅かでも売上増やビジネスチャンスに繋がれば幸です。
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