まちおしAWARD at 伊勢崎 ブラッシュアップ作品 千葉敦子さん
「町×おかみ」~老舗改革を支えたもの~
ガラス張りの明るい店内には、お茶を片手に寛ぐ人が見える。手にあるのは湯呑ではなくコーヒーチェーンでよく見かけるプラスティック製のカップだ。また時には小学生の子供たちに急須を片手にお茶の淹れ方を教える店主の姿を見ることもある。奥のカウンターには様々なお茶が並び、お茶請けや海苔のコーナーもある。
伊勢崎市の中心市街地「本町通り商店街」はシャッターを閉める店もある一方、伊勢崎のまつりの主会場として現在も多くの人が訪れている。その中でひと際目を引くのが、明治18年創業、日本茶の専門店「OCHAVA茂木園」。現在4代目の茂木政樹さんと宏美さんが切り盛りしている。
四代目おかみ、宏美さんの存在
茂木園の魅力は宏美さんの存在なしでは語れない。高崎市出身の50代。短期大学でインテリアやデザインの基礎を学んだ後、住宅設備機器メーカーに勤務。転機が訪れたのは34歳のとき。共通の知人を通じ、政樹さんと出会った。
「高崎にいたので伊勢崎のことはほとんどわかりませんし、老舗に嫁ぐというイメージも浮かばないまま話がまとまりました。でも初めてお店を見た時に、お客様は年配の方ばかりで商品構成も昔のまま、これでは10年先はないと危機感を覚えました。」
結婚後は2年間の専業主婦生活。時間に余裕ができた中でテーブルコーディネートや写真といった新たなスキルを磨く機会を得た。
「そのうちに店へ立つようになったんですけど、具体的な仕事の指示はなくモヤモヤする毎日でした。それと共にいろいろなことが見えてきて、このままでは10年先がないという不安はますます膨らみ、何かを学ばなければという焦燥感にかられました。」そこで専門学校でマーケティングを学ぶと、現代のライフスタイルに合う日本茶をサロン空間で楽しめる「ティーグレイス」のオープンを提案した。「衣食住は洋風化し、日本茶を飲まない人も増えている状況をどうにかしたかったのと、今までやってきた仕事や学びが役立てばいいなと思ったんです。」
その後コンサルタントの助言を受け、約4年かけて改革を行う。売上の記録と検証、店に季節感を持たせること、新商品開発、2カ月おきのイベントの実施、顧客名簿の作成、DMの発送、POPやチラシの作成と指導は続く。当時のことを宏美さんは「普段の営業をする傍らで新しいことが増えるのできつかったですね。弱音を吐きたくなることもありました。」しかしとにかく実践し続けた。そしてこの時間は宏美さんと従業員をひとつにする好機となった。
2014年、茂木園は3代目から4代目へ代替わりした。
「老舗だからできること」
茂木園は「OCHAVA茂木園」として、創業時からの顧客サービスを継承しつつ、「三世代が集う店」を目指し、若い人がお茶に親しむきっかけづくりを模索し、実践している。「140年の老舗だからこそできることがあると思ってます。地域のおかげで今の茂木園があるわけですし、ここを恩返しの空間にしていきたいですね。」さらに、「茂木園だけがよいのでは意味がなく、町全体、そしていらしたお客様みんながよくなる取り組みをしていきたいです。」
代替わりから11年。近年の老舗改革は目を見張るものがある。2021年には店をリニューアルしカフェを併設、SNSによる情報発信、昨年は店の駐車場の一角を使ったOCHAVAマルシェや多目的レンタルスペース「KAZE」の立ち上げと、宏美さんを中心に継続的に行われている。
伊勢崎銘仙が繋いだ縁
「伊勢崎に来た時に伊勢崎銘仙を見て虜になりました。」
一昨年、宏美さんは念願の「銘仙茶」を開発した。5種類の銘仙柄のパッケージで気分によって異なるお茶を味わえるというもので、伊勢崎銘仙のアップサイクルに取り組む村上采さんとの共同開発だ。発売から間もなく店の西の通りに銘仙の店「華々」がオープンした。店主の高山華代さんは「町なか創業者」だ。
「いざ創業となると不安ばかりで。そんな私にあたたかく寄り添って下さったのが宏美さんでした。ご主人と共に次代のお茶屋のあり方を模索しながら、町の賑わいや魅力づくりにも積極的に取り組まれていていつも刺激を受けています。宏美さんは大きな励みであり憧れです。」
「人間万事塞翁が馬」
宏美さんの座右の銘だ。「いいことも悪いことも一面に過ぎず、すべては愛から起こる。辛さを避けないで体験すれば後の喜びが輝くので、オールOK、平常心でいます。」
今、宏美さんは商店街の活性化の起爆剤となるべく「銘仙ストリート」を作りたいという夢を持ち「まずは通りを銘仙フラッグで繋ぐことからかな」と構想を温めている。
照れ屋なご主人は宏美さんについて語らないが、いつも「おかみ」ではなく「宏美ちゃん」と呼ぶ。二人の関係はこの呼び方に集約されていると言ってもよいだろう。
「私がいろいろなことに挑戦できるのは、社長が味方になってくれるからなんです。」
老舗改革を支えたもの、それは宏美さんであり他ならぬ心強い味方、四代目の政樹さんである。
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